楽しく働く人を応援するメディア

新しい宇宙ビジネス創造に挑む日本の大学発ベンチャー アクセルスペース中村氏に聞く超小型衛星の可能性

Q-SHOCKをご覧のみなさん、こんにちは、ROYです。「将来は宇宙飛行士になりたい」小学生の時の夢でした。最近、SpaceXやホリエモンロケットの打ち上げが続き、宇宙産業が話題となっています。今回は、大学時代に超小型人工衛星の開発を経験し、卒業後はビジネスとしてこの分野を開拓されてきたアクセルスペース代表取締役の中村さんに超小型衛星の可能性について語って頂きました。

  

プロフィール

 

中村 友哉(Yuya Nakamura)

1979年三重県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学博士課程を修了。在学中、世界初の大学生手作り超小型衛星「CubeSat(キューブサット)」を含む3機の超小型衛星開発に携わる。卒業後、同専攻での特任研究員を経て2008年アクセルスペースを設立し、代表取締役に就任。2013年に世界初の民間商用超小型衛星「WNISAT-1」、スタートアップが初めて手掛けるJAXA衛星「RAPIS-1」を含む5機の打上げ・運用に成功。これに加え、2022年完成を目標に、自社事業として多数の超小型衛星で全世界を毎日観測する地球観測網「AxelGlobe」の構築を推進中。第3回宇宙開発利用大賞経済産業大臣賞、大学発ベンチャー表彰2016経済産業大臣賞をそれぞれ受賞。2015年より内閣府宇宙政策委員会宇宙産業・科学技術基盤部会委員。

 

 

化学が好きだった僕が超小型衛星に関わるようになったきっかけ

 

―もともと高校の時、化学が好きだったとお聞きしました。そこからなぜ、大学で航空宇宙工学科を専攻されましたか?

高校の時、有機化学のパズルみたいなところが好きでした。しかし、大学に入ると、波動方程式などが出てきて、自分の感覚として物理に近くなってしまった。それ以来、化学にあまり興味が持てなくなってしまいました。

2年生の学科選択で化学を専攻することを辞め、他の選択肢を探るため、いろんな学科の先生の話を聞きに行きました。その中で、航空宇宙工学科の中須賀先生、現在では日本の宇宙業界の第一人者になっている方なのですが、その先生が、研究室で学生手作りの人工衛星を作るプロジェクトを始めていることを知りました。

学生が人工衛星を作れるなんて考えもしませんでした。人工衛星といえば、一流の技術者・科学者が何百人も集まって、JAXAなど国の研究機関で作るものというイメージでした。学生にどうやって作れるのだろうと疑問に思い、研究室を見に行きました。研究室では、どこにでもいそうな学生がはんだ付けしたりしている姿を見て、「こういうので衛星ができちゃうんだ」という新鮮な驚きとともに、ますます興味が湧いてきました。

 

世界中の大学をみても、研究室で衛星を作っているところは当時ほとんどなかったので、その点も魅力に感じました。高校の時からの夢を諦めるんだから、せっかくなら、他の場所ではできないことをやりたいと思ったからです。だから、航空宇宙工学科に進み、中須賀研究室に入って、衛星開発に携わり始めました。

 

―もともと宇宙に興味がありましたか?

特にありませんでした(笑)。小学校の自由研究で望遠鏡を買ってもらい、木星の観察などをしたことはありましたが、宇宙に特別な思い入れがあったわけではなく、将来宇宙に関わるなんて全く思っていませんでした。

自分の選択で衛星を開発することになりましたが、それは宇宙が好きだからというより、自分が作ったものが宇宙という手の届かないところに行って、設計した通りに動くという、そのエンジニアとしての興奮というか、ワクワク感からだったと思います。

 

 

自分たちの技術と世界との繋がりを初めて意識しました。

 

―衛星を大学の中で作るだけでなく、そこからビジネスにしていこうと思うようになったきっかけはありましたか?

研究室に入って、最初の衛星が2003年に打ち上がりました。私は衛星に付けるカメラの担当をしていたのですが、衛星から見た綺麗な地球の画像を、自分たちだけで楽しむのは勿体無いと思いました。だから、宇宙で撮れた画像をみんなに配信するシステムを作りたいですとPM(プロジェクトマネージャ)に提案し、そのためのソフトを自分だけで開発し、登録してくれた人に撮れた画像を配信する仕組みを作りました。

打ち上げが行われて以降、約4000人の方が登録してくださいました。また、配信した方から「すごく綺麗ですね」や「頑張ってください」など応援や感動のメッセージがたくさん来ました。

そんなメッセージをもらえるとは全く想像しておらず、ハッとしました。これまで自分たちの興味や楽しみで衛星開発を行ってきましたが、自分たちが作るものは、一般の人にも大きなインパクトを与えられることにかもしれないことに初めて気付いたのです。自分の技術と世界との繋がりを初めて意識した瞬間でした。

それ以降の衛星プロジェクトでも、この衛星って一体どういう意味があるのだろう、どんなインパクトを社会に与えられるのだろうということを考えるようになりました。単なる自己満足で衛星を作るのではなく、これまでに世界になかったものを作って、なんらかの形で社会的な価値を生まなければならないと思うようになりました。

 

ー衛星で撮れた写真を配信したことにより自分たちの技術と社会について意識され始めたのですね。そこから会社を作ろうと思い至った経緯を教えてください。

卒業が近づくころになって進路について考え始めました。最初は起業という選択肢があることなど知らず、普通に就職を考えていました。

一方で、私は超小型衛星を社会の役に立つものにしたいという強い思いを持っていました。だからそれができる企業に就職しようと思い、探しました。しかし、超小型衛星を作っている会社はありませんでした。国内の大手企業で衛星を作っているところはありましたが、それは国のプロジェクト向けの大きな衛星であって、就職しても超小型衛星が開発できるわけではないことは明らかでした。

海外に目を向けても同じです。そもそも超小型衛星は、宇宙のエキスパートから見ると学生向けの教育用という認識しか持たれていませんでした。

しかし、自分の中で、卒業までに実際3つの超小型衛星開発を経験して、目覚ましい技術の向上を目の当たりにしました。だから、もう少しすれば絶対に役立つものになるという確信がありました。

どうしようか迷っている時、研究室の先生が大学発ベンチャーを作るための助成金を受けていたので一緒にやらないかと誘われました。そこで初めて会社を作るという選択肢に気付きました。そこから1年半くらい起業の準備をして、最終的に2008年8月にAxelspaceを立ち上げたのです。

 

 

超小型衛星だからこそ生むことができる新しい価値

 

―就職活動の時も大型人工衛星ではなく超小型衛星にすごくこだわっていらっしゃいました。超小型衛星のどんな部分に可能性を感じていますか?

従来の大型衛星は価格がかなり高い。数百億円かかります。すると、国がほとんど唯一のお客さんになってしまいます。

一方、超小型衛星はかなり安く作ることができる。大型衛星と同じことはできませんが、価格を安く抑え、例えば機数を増やすことで撮影頻度を上げるといった超小型衛星ならではの利点を活かすことができれば、新しい需要を生むことができるのではないか。数百億円という価格を二桁下げられることができたら、十分検討の余地があるのではないか。つまり、数億円。ヘリコプター1機と同じくらいです。その価格帯なら、衛星を民間企業が持つということは不可能ではないという時代がおそらく来ると考えています。

それを実現できる超小型衛星クラスの価格とスピード感に可能性を感じました。

 

―アクセルスペースの超小型衛星は世界的に見てもコストが安いです。アメリカ発ベンチャーの小型衛星の10分の1にまで抑えられている。なぜそんなに安く抑えることが可能なのでしょう?

これは個人的な考えではありますが、製品の作り方に対する考え方の違いだと思います。

アメリカの宇宙ベンチャー企業は、実績もないのに投資家からお金を集めてきます。そのお金で、NASAやボーイングなどから経験のあるエンジニアを引っ張ってきます。そして作り始めます。だから、衛星開発における信頼性やコストについての考え方は大型衛星のものと同じ。だから、劇的には安くならない、いいかえると、サイズに対してリニアなコストの下がり方しかしないのではないかと思っています。

我々は全く違います。もともとお金のない大学で研究開発をやっていて、その考え方を受け継いでいます。コストを抑えたまま、性能、信頼性を上げていき、実用的なところまでたどり着いた。このアプローチの差は大きいです。

もう1つ、日本のモノづくりの特徴である「擦り合わせ型」も起因していると思います。

自動車もそうですが、アメリカでは、何でもインターフェイス切って、大量のドキュメントを作り、誰がそこのポジションに入ってもできるような作り方をしています。つまり、システムエンジニアリングが発達しています。これは大規模なものを作るためには必要な仕組みです。しかし、複雑大規模に向く作り方をそのまま小型衛星に適応すると、必要な工数が増えて、コストがかかっています。

一方で、擦り合わせて、最適化する作り方は、全体をみんなが大まかには把握し、それぞれの仕事をうまく擦り合わせながら繋げていきます。結果、ある程度の複雑さのものであれば、品質良く、安いコストでできる。だから、超小型衛星レベルの複雑さだと日本の擦り合わせ型が機能して、結果、安く品質の高いものを作ることができるのではないかと思っています。

 

 

全員エンジニアからのスタート

 

ー起業する過程で、最も大変だったことはありましたか?

会社としての体をなすところまでが大変でした。

私たちは起業や経営についての知識が全くない状態で起業しました。また、プロジェクトに入ったメンバーも全員エンジニアです。

衛星開発はやっていましたが営業のノウハウなどは全くありませんでした。起業準備の期間中に色々な会社へ営業に行きました。例えば、地図関係の会社やおもちゃ関係の会社に行き、「超小型衛星を作りませんか」と提案します。大学発ベンチャーにありがちですが、自分たちの技術をプッシュすることばかりに一所懸命でした。しかし、彼らのニーズにうまく合うように提案しなければ、響きません。衛星ビジネスは面白いから、とりあえず話は聞いてくれました。しかし、その次のステップになかなか行けませんでした。

なぜなら、超小型衛星をどう使うかというアイデアを示すことができなかったからです。このような状態で1年ぐらいが過ぎてしまいました。

このままでは起業をあきらめなければならないという背水の陣を迎えたころ、株式会社ウェザーニューズの方とお会いする機会を得ました。ウェザーニューズは北極海航路の支援サービスを提供しようという取り組みをしていて、北極海の氷の分布を知る必要がありました。

最初は、既存の衛星から画像を買うということを考えていましたが、コストが非常に高く、1枚100万円くらいする場合もあります。船会社に対してサービス提供しようとすると、画像を必要なだけ買うだけで数千万円かかる。しかし船会社が通常の航路の代わりに北極海を通ることによって浮くコストは、それよりも全然少ないのです。だからビジネスにならない。

そこで、衛星を持つことを検討しました。もちろん最初は数億円かかりますが、打上後、画像に対して1枚100万円ずつ払う必要がない。だとしたら、ビジネスになるのではないかということを考えていました。

我々としては、彼らのニーズを満たす衛星を提案するだけでよかったので、話が順調に進みました。ディスカッションが半年ぐらい続いて最終的には、やりましょうと決断してくださいました。

 

 

生まれたて”ニュースペース”の課題

 

―宇宙産業は昨年、SpaceXやホリエモンロケットで話題となりました。今、宇宙産業で課題となっていることはありますか?

アクセルスペースの他、かの有名なSpaceXやホリエモンロケットで有名なインターステラテクノロジズもそうなのですが、宇宙業界においてここ15年くらいの間に生まれてきた新しいプレイヤーが活躍しはじめており、世界的に存在感を高めています。それらはほとんどすべてがいわゆるベンチャー企業です。近年、こうしたベンチャーが主導する宇宙ビジネスからなる新しい産業のことを、ニュースペースという言葉で表現するようになりました。旧来の国家主体の宇宙開発とは、価値観も顧客もサービスも大きく異なります。

ただ、ニュースペースはまだ発展途上。ビジネスモデルが確立されてないところが課題といえば課題です。どういう儲け方をするのか、ということですね。

宇宙ビジネスは最近注目が集まり、大きな資金調達をするベンチャーも出てきています。しかし、それは基本的に期待先行です。お金を集めた後に、プロダクトを作って、お客さんを集めて、実際に儲けることができるということをまだ証明できていない。だから今後は、ビジネスになるということを世の中に示していかなければなリません。でもそれはネガティブな話ではなく、宇宙産業が新しいフェーズに入ったということです。

 

―従来の宇宙産業はどういうビジネスモデルでしたか?

宇宙産業は、国が支えることで成り立ってきた歴史があります。つまり、国が宇宙関連予算を組み、例えば日本でいえば年間3000億ぐらいなのですが、宇宙メーカーがそれを取りにいく形です。打ち上げた衛星から得られたデータは、主に研究者が細々と使っていました。そこに、いわゆる民間ビジネスは介在しません。

だから、すごくクローズドな中でほぼ全てのお金が回っていました。宇宙産業にかかるコストの原資はほぼ税金のみ、という時代が長く続きました。それがここ10年くらいで新しいプレイヤーが生まれ、ニュースペースの考え方が登場し、われわれに馴染みのある「普通のビジネス」に近いことが宇宙でも起き始めています。

 

―まだ10年しか経過していないんですね。

もともと、ニュースペースという概念のベースを作ったのは、ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクです。彼らがIT業界で成功したお金を自己投資して宇宙旅行用のロケット開発などを始めたのです。当時の投資家は、リスクが大きすぎてお金を入れられなかった。だから、彼らのようなお金持ちの人が、自分で投資して、ロケットとかを作り始めた。

その後、小型衛星技術などが注目され始め、そうした新しいツールによるビジネスの可能性を考えたシリコンバレーの投資家が、投資を始めました。それが2010年前後です。

 

 

衛星屋さんからデータプラットフォーマーへ

 

―現在AxelGlobeの展開を計画されています。それに向けて2018年12月27日に1機目の衛星を打ち上げられました。今後の展望について教えていただけますか?

我々としては、2022年完成を目指しています。今後も、さらに打ち上げを行っていきます。

衛星1機目からサービス提供を始めますが、衛星が複数上がって、世界中を毎日観られるという状態を実現してはじめて、AxelGlobeの価値は出てくるものだと思います。

そのために、衛星の軌道上整備を早急に行ないます。そして、本番はそのデータを使ったビジネスをいかに作れるか。つまり、データを利用するためのプラットフォームをいかに早く作り上げて、顧客基盤を整え、世界的に、標準的に使われるプラットフォームとして、認識してもらえるようになるかがとても大切です。

 

―衛星屋さんではなく、自社で衛星を持ち、データ集めて、それを使ってもらうようにするということですね。

もともと起業したときは、ウェザーニューズの時のように衛星を顧客のニーズに基づいて作ることが基本的なビジネスモデルでした。ただ、この先、こういった顧客が次から次へと出てくるとは思えず、衛星を作るビジネスだけやっていてもなかなかビジネスはスケールしません。

そこでもう一つのビジネスの柱として、自社で衛星を持って、そのデータを販売するモデルを考えました。顧客としては、衛星を持つリスクがなくなり、気軽に衛星データを利用することができる。我々としては、同じデータを多くの顧客に使ってもらえる。すると、ビジネスとしてもマスを確保できるので、ビジネスとしてスケールしやすい。

もちろん、安く品質の良い衛星を作る能力は我々のアドバンテージでもあり、維持・発展させていく必要があると考えているので、従来の専用衛星を作るビジネスも続けていきます。しかし、将来の収益の中心となるのはAxelGlobeであり、大きなビジネスへ成長させていきたいです。

 

―会社としての理想像に対して、中村さん自身が今後目指していきたい姿はありますか?

超小型衛星という価値を社会に広めていくということが、私の大きな目標です。それを実現する手段がアクセルスペースです。今は衛星で画像を撮影していますが、他にも超小型衛星だからこそできることはたくさんあると思います。それを追求していくことは、引き続きやっていきたいです。

日本だけではなく世界で、超小型衛星といえばアクセルスペースだよね、と呼ばれるようになりたい。今のAxelGlobeで終わりではなく、もっと様々な可能性を追求し、世の中に広めていきたいです。

 

―最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

アンテナを張り続けて欲しいというのが一番のメッセージです。

自分の歩みを振り返ってみると、すごくラッキーでした。化学が好きだったのに、衛星開発というチャンスに巡り会い、その研究室に入った。偶然、卒業するタイミングで、研究室が大学発ベンチャーの補助金を取れたから、そこに入れてもらい、たまたまウェザーニューズさんに出会い、彼らが自社専用衛星プロジェクトをやると言ってくださったから起業することができた。能力を持った多彩なメンバーがいたから、会社を大きくすることができた。

でも僕一人だけがラッキーということはおそらくなくて、チャンスは誰に対してもあると思います。ポイントはそれに気付いて、掴みに行けるか。運がある人は、運を掴みにいける人です。

普段の何気ないニュースや、友達の話に自分の人生を変えるきっかけがいつ潜んでいるかわかりません。だから、偶然に出会ったチャンスを掴みに行こうという意識を常に持っていてほしいです。

ただ、別に気負う必要はありません。自然体で、「面白いな」と直感的に思ったことを少し掘り下げてみる。その繰り返しが、いつか自分の人生を決める大きな発見につながると思っています。

ROY by
早稲田大学の基幹理工学部3年生 現在Q-SHOCKのSHOCKERとして活動中。また学生就活コミュニティを友達と立ち上げ運営中。 趣味はサイクリングと読書
SNSでフォローする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です