Q-SHOCKをご覧の皆さんこんにちはサキッチョです。
皆さんは日本酒にどのようなイメージをお持ちでしょうか。
悪酔いする、飲みにくい・・・そんなイメージを覆すような面白くて革新的な日本酒を、 日本のみならず世界に広めようとしているベンチャーがあります。
今回は日本酒ベンチャー”WAKAZE”社長の稲川琢磨さんに、 事業を始めるまでの経緯や現在の取り組み、そして今後の展開について話を伺いました。
取材場所は、三軒茶屋にあるWAKAZEの醸造所バー「Whim Sake & Tapas」です。
是非お店の雰囲気も感じながら読んでみてください!
目次
慶應義塾大学理工学研究科で修士課程修了、在学中にはフランス政府の奨学金給費生として2年間パリのEcole Central Parisに留学
前職ではボストンコンサルティング・グループにて経営戦略コンサルタント
2016年に独立・起業しWAKAZEを設立
ー早速ですが、稲川さんの事業について教えてください。
日本酒のメーカーをやっています。今までは、酒蔵を持ってこそ日本酒メーカーという世界だったのですが、僕たちは”ファブレス”といって、自社のオリジナルレシピを製造委託をしている酒蔵に渡し、出来上がった日本酒を販売する形で日本酒を造っています。
ーどのような日本酒を造っているのですか。
主にORBIA(オルビア)とFONIA (フォニア)という2つのブランドを展開しています。ORBIAシリーズはワイン樽熟成、FONIAシリーズは和の柑橘やハーブ使って造ったSAKEです。
この2つのラインナップで製造委託をした後、2018年の7月に、「WAKAZE三軒茶屋醸造所+Whim Sake & Tapas」という酒蔵併設のBARをオープンしました。ラボをイメージいただけたらわかりやすいのですが、店内に4つのタンクがあり、内部の温度調整をすることによって、年間48回、四季醸造*ができます。その中から面白いものだけを、BARで飲食提供して、お客さんからのフィードバックも受けつつ、また造りたいと思ったものだけスピンアウトとして山形にある提携先の蔵で量産しています。
(※四季醸造(しきじょうぞう)とは:冬の寒い時期だけでなく、一年を通じて日本酒を醸造すること。またはその技術や製法のこと。)
―インタビュー中ですが、せっかくなのでいただきます!…美味しい!!
今飲んでいただいたのが、FONIAというボタニカルを使った日本酒です。柚子や檸檬、山椒、生姜といった和の柑橘やハーブを、香りづけのために発酵途中で入れています。そうすると香りが華やかになります。
色は、アントシアニン(皮の成分)からでています。僕らも狙ってるわけではないのですが、発酵の進み具合によって色が違うのも、また日本酒造りの面白いところです。
―1年で48種類日本酒を造り、お客さんから評判が高かったものを山形で大量生産するというアイデアはどのように思いついたのでしょうか。なぜ最初から山形で醸造せずに三軒茶屋で作ろうと思ったんですか?
日本酒の醸造はとてもハードルが高いです。夏は雑菌が繁殖しやすくなるので、冬の寒い時期に作るのが基本。約半年間くらいしか日本酒を作れない。そうすると新しいもの造ろうとしたときに、1年間レシピを考えて、冬に試して…と製造サイクルがすごく長くなります。新しいことやろうとしているのに1年に1回だけしか造れないのはさすがに厳しいので、もっと身近なところに日本酒が造れる仕組みがあった方がいいよね、という話でここに醸造所兼レストランをオープンしました。
この話は2017年12月ごろ、山形での醸造のビジネスが形になってきたときに、創業メンバー3人で飲んでいる中で、取締役の一人が「Brew BarをやったらWAKAZEのお酒はもっと広まるんじゃないか」と話していたのがきっかけです。僕は熱量がすごく高くなりやすいので、翌月には物件探しを始めて、翌々月にはここ三茶に物件が決まって、製造免許取って、7月にオープンしたという経緯があります。
―日本にはいろいろな酒造ありますが、一年に一回醸造するというのが主流なのでしょうか?
ほとんどそうです。100年前からこのスタイルでやってきているので、僕たちはその100倍のスピードで開発しようとしています。それができるのも当社の杜氏のおかげです。
彼は、東大農学部卒の酒蔵の息子で、彼と一緒に起業しました。彼が責任をもって醸造してくれるのは大きいですね。今は、日本酒の登竜門である東京農業大学の醸造学科の学生さんも何人か来てくれています。そういった次世代を作る人たちが集まり、常に新しい刺激をくれるのでとてもありがたいです。
―ものすごく早いスピードでトライアンドエラーを繰り返しているんですね。
はい。新しいものをひたすら生み出す中で、「ここに可能性があるな」というのを一つでも見つけられればいいなと思いながら日々やっています。やはり新しいものを試さないと、イノベーションは生まれないと思うんです。
イノベーションなんて、かっこよく言っているのですが、基本的にはゴミ箱に行くたくさんのアイデアの中でたまたま1発当たればいい話だと考えています。Whim Sake & Tapasという店名の、Whimは英語で”思いつき”という意味なのですが、「ゴミ箱に行くアイデアの数」=「思いつきの数」こそが勝負だと思うんですよ。チャレンジ回数をひたすら増やしていきたいということで、今ここで日本酒事業をやっています。
今年はパリで酒蔵を作る予定です。夏くらいにオープンできるように今ちょうど動いていています。今後はパリ以外にも、アメリカや香港、シンガポールに拠点を広げていきたいです。
―WAKAZEを起業したきっかけを教えてください。
きっかけは大きく2つあります。1つ目は、学生時代にフランスに2年ほど留学したことがきっかけです。留学時に、日本の伝統文化をいかに海外に出すのかにとても興味が湧きました。フランスは数々の名だたるブランドがある一方で、日本のブランドなんて誰も知らない。残念ながら中国人と韓国人と日本人は一緒のような感覚でまとめられていることがとてもコンプレックスでした。
そんな環境で2年暮らしてみて、「日本にはもっと海外に誇れるいいものがある。もっと知られてもいいんじゃないか」と感じました。
もう一つは僕の父がカメラレンズの下請けの会社をやっていたのですが、iPhoneの登場や日系企業の方針転換によって、業績が右肩下がりになってしまって…
そういった厳しい状況を目の当たりにして、「日本の製造業を変えていきたい。イノベーションを起こすことによって日本の製造業を盛り上げたい。」と感じました。おやじの苦しい背中見てきたからこそ、製造業という軸を持ちました。
ー起業する前はボストンコンサルティングでの経歴をお持ちですが、どういう経緯で入社し、その後起業されたのですか。
日本・製造業という2軸は持ちつつも、就職活動のときはいまいちアンテナに引っかかるものがなくて、結果的にボストンコンサルティングに修行で入りました。入社して1年ほど経った頃に、たまたま日本酒と出会って、心に火がつきました。2軸が当てはまったのが日本酒でした。
でも僕はサッカー部だったので、もともとは日本酒は、ただただまずい酒だと思ってたんですよ(笑)
―部活だと安いお酒の一気飲みなんか日常的ですもんね(笑)
そうそう。そんな感じでした。焼酎と日本酒の違いすら全く分かっていなくて…
そんな僕が社会人になって、少しいいお酒を飲んだときに、こんなにフレッシュでおいしいお酒があるんだと衝撃を受けました。
そこが転換点となり、面白い日本酒ってどうやったら造れるのだろう、と友達に相談したら、「俺の友達に酒蔵の息子いるんだよね」と、今の共同創業者である杜氏に出会いました。その後、1年弱の週末起業を経て、ボスコンを辞めました。
―稲川さんは新卒でボスコンに入って何年間で起業したんですか?
僕は2年で起業しました。
事業を作りたいという想いがもともと大きくて、今後何十年もコンサルタントとして働き続けるのは向いてないなと思っていました。それは、学生時代にスタートアップで事業立ち上げの経験をさせてもらったことが大きく影響しています。時給数百円なのに、なぜか事業部長として社員さんも巻き込んで、外国語の専門学校の立ち上げに携わっていました。結局うまく立ち上がらなかったのですが、1回失敗できたことによって、「もっとスタートアップでチャレンジしたい」と思いました。
ただ当時から、自分が本当に情熱持って打ち込めるものじゃなければ絶対にうまくいかないし、長くは続かないなと感じていました。就活のときは、それが見つからなかったので、ボスコンに入りました。トップファームに行けば、そこで出会う人や、鍛えられるものも違うと思ったからです。
―辞めるときに迷いはありませんでしたか?
コンサルティングファームに入ったこと自体は失敗ではありませんでしたが、試行錯誤しながらパフォーマンスが上がってきたときに、僕はコンサルティングを続けたいわけじゃないというところに立ち戻りました。
そして、長く続ければ続けるほど、辞めにくくなることもわかっていました。端的に言えばサンクコストの問題です。このコストが年数を重ねるごとにどんどん高まってしまうので、新しいことをやりにくくなってしまう。それを取っ払うためには、早く辞めるべきだと考えていたので、迷いはなかったです。
あと、正直に言うと日本酒の事業をやろうと週末起業していた当初から、フランスで蔵を作りたいという想いを持っていました。
―起業当時からフランスでの事業を視野に入れていたんですね。
ただし、いきなりやるのもお金もノウハウもないし難しい。そこでボスコンのパリオフィスに行くことや、転職して現地企業に勤めることも考えたのですが、どちらも需要やビザの関係でそう簡単にはいきませんでした。
そこで、まずは日本でベース作って、そのあとフランス進出することを目標に今まで走ってきました。今年ついにフランスで蔵を作る予定です。4年でやっとここまで来れました。今年は勝負の年になります。
―稲川さんと話していて、なんとなくですが…全然ボスコンっぽさを感じません(笑)
よく言われます(笑)
結局社会を変えていくというのは、ブレイクスルーできるかどうかだと考えています。進撃の巨人でいうところの奇行種で、みんな一斉に逃げていくのに一人だけ全速力でこっちに走ってくるようなヤツです。
ー Q-SHOCKの読者で起業を目指している人もいるかと思います。稲川さんはどんな人が起業に向いていると思いますか?
爆発力を持ったスイッチを自分の中に持っているかどうかだと僕は思います。外部からスイッチ押される人は起業にはあまり向いていなくて、勝手に自走する人が向いていると思います。
人を、自燃性、可燃性、不燃性の3パターンに分けると、起業家は自燃性で、勝手に燃えているタイプ。きっかけを自分で見つけて燃え上がるということです。起業して取締役をするのは可燃性で、燃える可能性があるけど誰かが火をつけなければいけないタイプです。
ー起業家よりもCOOに向いている人もいますよね。
うちの取締役はそういうタイプです。楽天で7年勤めて、たまたま僕と知り合っちゃって、こっちの世界に引きずり込まれていく間に、どっかのタイミングで火がついたんでしょうね。それでうちに来てくれました。彼は可燃性のタイプです。
ーどういうふうに巻き込んでいったんですか?
1年間かけて口説き落としました(笑)彼はオペレーションがすごく得意で、僕の持ってない長所がたくさんあります。そういう人が近くにいてくれるのは、ありがたいことですし、とても感謝しています。
ー稲川さんがWAKAZEで描きたい未来について教えてください!
日本酒を世界中に広めて、日本酒が当たり前に飲まれているような未来をつくりたいです。
僕は日本酒だけではなくていろんなお酒飲みたい性格なのですが、ビールとワインしかメジャーな醸造酒がないということに、みんなどこかで飽きてくると思います。日本酒がビールやワインと並ぶように、日本酒という新しいカテゴリーを世界に発信していきたい。そして、クラフトビールが流行ることや、ワインの中でも自然のワインが流行ることと、同じように日本酒にももっと多様性を持たせたい。
作り手の個性が出る時代に突入していく中で、日本酒という新しいカテゴリーを提案していきたいです。
しかし、それは僕たちの力だけでは不十分です。IT業界だとfacebookやGoogleみたいなひとつのプレイヤーがマーケット総取りできて、みんなも満足という世界があると思うのですが、お酒はそうではありません。いろんなプレイヤーがいてなんぼなんです。
だからこそ、自分たちが100億円くらいの大きな規模になって、後に続く人たちに夢を持たせられるような会社になりたい。それと同時に、その人たちに投資をして、インキュベーションしていくことで、世界中で日本酒が造られて世界中で飲まれるという流れを生み出していきたいです。
ーWAKAZEが日本酒を世界中で流行らせていく、そんな野望をお持ちなんですね!
はい。グローバルでみると日本酒マーケットはまだ小さいですが、例えば、靴職人がアフリカに行って、裸足の人がたくさんいる状況をみたとき、靴の市場はないかと思うのか、もしくは靴の市場しかないと思うのか…僕は後者で、「絶対に売れる。チャンスしかない。」と思います。フランスに醸造所ができたら、ワインマーケットひっくり返すというのも一つやりたいことです。オセロをひっくり返すみたいな感覚です。
ー最後に読者に対してメッセージを頂きたいと思います。稲川さんは社会人になって1年が経った頃に、日本酒にビビっときて、火がついたと伺いましたが、そんな着火点をまだ見つけられずにくすぶっている人は多いと思います。そんな人が稲川さんのようにきっかけをつかむにはどうすればよいでしょうか。
まずはアンテナを立てること、そして旗を振ることが大事だと思います。今一緒にWAKAZEをやっている今井はもともと酒蔵の息子で、「こういうことをやりたいんだ」とずっと言ってて、そう言ってたからこそ僕と繋がって、今に至るという経緯があります。彼は可燃性の人間で、僕が着火点となった感じです。同じように可燃性の人は、そういうきっかけが必要じゃないですか。旗を立てて、「僕ここにいるよ」というアピールをすることはすごく大事だと思います。それはこういうプロジェクトやってますとSNSで発信するとか、週末起業をするとか、方法はたくさん転がっているはずです。
ーそれともQ-SHOCKに遊びに来るのか?
それも一つですね!!(笑)
<お知らせ>
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