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平日は保育士、休日は写真屋で週7日働きながらサクラスリングを起業。3児の母でもある杉山さくらさんが写真業界で見つけた役割とはー

Q-SHOCKをご覧のみなさん、こんにちは。サキッチョです。

もうすぐゴールデンウィークに入りますが、読者のみなさんの中には、カメラを持ってお出かけする方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、カメラを持つことの不便さを解消するために、赤ちゃん用の抱っこひもからヒントを得てカメラストラップサクラスリングを発案した杉山さくらさんに話を伺いました。

3児の母であり元々保育士でもあった杉山さくらさんから、起業のきっかけや写真業界での挑戦について話していただきました!

 

プロフィール

杉山さくらSakura Sugiyama

 

1980年生。(株)Sakura Sling project 代表取締役社⻑。サクラスリング創始者

介護福祉士、保育士としての経歴がある3児の母。元代官山 北村写真機店販売員。夫は保育士。子育てが落ち着いた頃から写真を始め毎日カメラを 持ち運ぶ事に不便を感じ、子育てにベビースリングを愛用していた経験から ストール状のカメラストラップ『サクラカメラスリング』を発案。ストール状のストラップを扱う「サクラスリング」を立ち上げる。独学で 縫製や起業のノウハウを学び商品化に繋げる。グッドデザイン2015受賞。百貨店での期間限定催事や、家電量量販店での全国展開など、サクラカメラスリングの拡販に尽⼒している。

 

子育ての経験からヒントを得て、サクラスリングを発案

ー早速ですが、杉山さんの現在の事業について教えてください。

サクラスリングというブランドを立ち上げ、カメラストラップというカメラを肩にかけるグッズを主に作っています。

ストールのような幅広の生地を使ったストラップで、1番の特徴としては、生地を束にし強度をつけ、生地の大きさで物の重さを分散させることでカメラを楽に持つことができることです。
従来のカメラストラップは、幅があるとしてもベルト位の幅のものなのですが、この製品は倍以上幅が広いのでとにかく体の負担が少ない。また、風呂敷のようにカメラを包んでカバンに入れることでカメラを傷から守ることができますし、ポケットがあるのでレンズキャップも入れられるようになっています。


ーデザインだけではなく、機能面も充実してますね。

洗える素材で作っているので、カメラの汚れを拭き取ったり、ストラップ自体が汗などで汚れたら洗濯することもできます。
写真を撮影するときにストラップを前ボケのカラーフィルターとして使い、生地の色味を写真に活かすこともできます。

2015年にグッドデザイン賞を受賞し、デジタルカメラグランプリというカメラや周辺グッズのコンテストでも金賞をいただきました。

前ボケのイメージ

ーサクラスリングの開発に至った経緯を教えてください。

私は20代のころに、3人の子供を産み、20代はずっと子育てに集中していました。30代になって、子供たちが自分で小学校に行くようになり、少し手が空いてきたときに、保育士の仕事をしながら趣味としてカメラをはじめました。
カメラを毎日持って出かけていた4年前の春、サクラスリングを発案しました。

カメラを始めた10月頃にライカの一眼フィルムカメラを購入し日々使っていて、5月ごろ暖かくなりコートを脱いだら、細い革の紐が肩にくい込み、カメラをぶら下げることがとても辛くなりました。カメラの重さが負担になっていたんです。
とはいえ、カメラ持たないと写真が撮れないので、毎日持って出歩いてたのですが、やはり肩も辛いし、肩こりもひどくなっていきました。
そんなとき、3人の子育てで、子供たちを布で抱っこしていたことを思い出しました。
ベビースリング(抱っこ紐)を使って子供だって抱っこできるんだから、カメラにも使えるのではないかと思いました。

カメラに布をつけたらカメラの重さを分散でき、さらにカバンの中にカメラを入れるときに、布で包めることや、カメラを机に置くときに、座布団のように使えることに気づき、ストラップ自体が布だと何かと便利だと、使いながら利点に気づいていきました。

 

平日は保育士、休日は写真屋で、週7日働きながら起業

ーなぜ商品として販売していこうと思ったのでしょうか。

“写真を続けたい”という気持ちが商品化の大きなきっかけとなりました。
写真はお金のかかる趣味なので、家族に迷惑をかけながらカメラをやっていると言う意識がありました。
子供たちを3人育てながらも、パートで働きながらも、写真を続けてくためには、もう一つ仕事を増やさないといけないと考えました。しかし、平日は保育士、休日は写真屋と週7で働いていたので、もうこれ以上仕事を増やせない。そんなとき、すでに私の肩にはスリング状のストラップがかかっていて、「もしかしたらこれで起業して、少しでも利益をいただけるようになったら私は写真を続けられるようになるのではないか」と思ったのが最初のきっかけでした。

しかし、まわりにこの話をしても、カメラに布なんて必要ないなどと言われ、大反対され、全然良さが伝わらず…
その中でも二人だけ、これはすごいと言ってくださる方がいました。そのお二人の方々の言葉を励みに商品化しようと決意し、半年かけて商品化しました。
自分が働いている写真店で商品を販売するところから、サクラスリングがスタートしました。

 

ー最初の反応はどうでしたか。

最初は知ってる人とか友達が買いに来てくれてやっと月に10本売れた位です。最後の二本は両親が買ってくれました(笑)

次の月は目標20本。でも自分の力では難しくて困っていました。そんなときにカメラのイベントで「デジカメ Watch」というメディアの編集長が記事にしてくださったことをきっかけに、知らない間に私のところにたくさん人が来てくださるようになりました。そこから売り上げが少しずつ上がっていきました。当時は、全部私がミシンで手作りし、月に80本位作っていました。

 

ー今はどこで作っているのでしょうか。

今は主に愛知県の一宮市の縫製工場で職人さんに作っていただいています。今はヨドバシカメラやビックカメラの家電量販店でも取り扱いがあるので、しっかりとしたプロの方に作っていただいています。
公式のオンラインショップでの販売もはじめ、おかげさまで、どんどん出荷台数も増えてますし、ユーザーさんも増えて来ていることを感じられるようになりました。

 

ー写真を続けたい、写真が好きという思いが強かったのですね。

カメラが好きというより、「写真の世界の中心を見てみたい」と単純に写真業界に憧れがありました。
カメラを始めて、主婦の生活では出会えないような写真家の方たちとの出会いがあり、自分も、写真業界の中で繋がりを持つために、何か役割を見つけたいと感じました。
最初はそれが何かわからないままとりあえず写真を撮っていましたが、今はサクラスリングの代表として写真家の方やメーカーさんなどとの出会いを頂けるようになりました。

 

ー主婦から、起業をし、サクラリングを制作販売してみて、ご自身にどんな変化や気づきがありましたか。

スリングスタイルのストラップを考案したのは私が最初になるので、今後同じような製品が出たとしても元祖は私になれる。私は人前に出ることも苦手で、自分自身にも自信が持てない事が多かったのですが、世の中にないものを生み出すことで、世の中に対してやっと自信を持って出ていける気がしました。

写真を続けたかったという動機なので、起業するつもりも、ストラップ屋さんになるつもりもなかったのですが、過去にベビースリングで子育てをしていた経験と写真の趣味とが結びついた感じです。

 

広い世界で自信を持って前に出ていくためには誰かがすでにやっているステージではなく、誰もやっていないことで一番になるしかない。

ー 「世の中にないものを生み出したい」という思いは、いつ頃からお持ちだったのでしょうか。

30代になって子供が手離れし、「自分は何がしたいのか」と考えたときです。私が子育てに熱中していたときのように熱中できることを見つけ、その中で自分の可能性を探したいと考えるようになりました。
当時ヨガを習っていて、それを極めようと思ったこともありますが、今からヨガの先生をやっても日本の中でもすでに有名な先生がいる中で自分らしさを見つけられる気がしなかった。「誰かが既にいるステージではダメだ」という考えを持ちました。自信を持って自分らしく仕事をするためには、自分に今すぐにでもできることで、誰もやってないことをやるしかない
どんなことでも元祖になれたらスポットライトがあたるし、そんなアイデアを見つけられないかなと思っていました。


ー誰もやっていないことを探していたところで、ストラップと出会ったんですね。

最初は、自分にしかできない写真表現を探して写真を撮ってました。でも写真家になるイメージはありませんでした。
子供の頃の自分は何が好きだったかなとか、そういう過去の自分を引っ張り出してきて、ひとつひとつ考えていました。

 

自分の心の中にある豊かさを守るためには、批判的な声に流されてはならない

ーブランドを大きくしていく中で、大変だったことや挫折しそうだったことはありますか。

商品化することを周りに話したとき「素人がストラップ作るなんてやめた方がいい」「可愛らしいのを作ったって写真の世界は男性ばかりなんだからうまくいくわけない」と言われることもありました。
実際、カメラ屋さんで働いていてもカメラのストラップは、1日に一本売れるか売れないかの世界です。カメラを買ったらストラップが付いてきますから…

また、ストラップは安全基準でいったら1番肝になる部分なので、高い品質が求められる。「何かあったらどうするの」「とにかくやめたほうがいい」ってことしか言われませんでした。

それを聞き続けた時に、ここでめげたら私は今後、何もできないなと思いました。私にはこのアイデアが世界中のたくさんの人の役に立つ未来がはっきり見えていたので、今自分の心の中にある豊かさを守るためには、他人の意見にいちいち流されてるようじゃいけない。自分のモチベーションが下がるような環境にいるのはやめようと考えて、しばらくは必要以上に話すことをやめて、なるべく人に会わないようにしました。

慎重に自分が思っていることを話す人はいても、まわりに大きく話さなかったし、家族にもとても心配されましたが、最短で商品化するという決意が固まり、その大きな気持ちを動かさない事が大事だということと、世の中にないものを作ろうとするときは、それを形にするまでは共感を得るのは難しいということを学ぶことができました。

その後も細かい挫折のようなことは多々ありましたが、会社は長く続いていくイメージは私の中にしっかりあるので、この大きな荒波を半年後の自分はどのように乗り越えたんだろう?とイメージしながら、未来にいる自分と相談するような感覚で、手段をまず考えて動いていきました。

 

ー仕事において大事にしていることはありますか。

1番大事にしているのは、目の前のことから自分が何を感じ、どう次につなげるか考えることです。イベントの様子も、お客様との話も、会社の経営も同じです。状況が良くても悪くても、次につながるヒントが隠されていると信じています。イベントでどんなに頑張っても実績が伴わない日もありますが、そこから1つでも未来につながる出会いがあったり、大きなきっかけを掴めることもあるので、今日一日の意味が何であったのかをしっかり考えるようにしています。私はいい時も悪い時も感情を大きく動かさないことを大切にしています。

一つ一つの出来事で気持ちが浮き沈みするよりは、サクラスリングをどんなブランドにしていきたいのか、ということを常に考えるようにしていて、ブランドの代表でいる限り、一番大切なのは私の感受性なのだとこの仕事を始めてから知ることになりました。

 

大好きな写真の世界で居場所を見つけるために、手段としてストラップを作ることを選んだ

ー好きな領域で起業してみたいとは思うものの、できることが見つからなくて趣味で終わってしまうという人もいるとと思うのですが、好きなこととアイデアの組み合わせで、杉山さんにしかできないことにチャレンジしていったんですね。

私は、自分のブランドを趣味で終えるつもりは全くなくて、大手のカメラメーカーさんと並ぶようなブランドにしたいと思って作り始めました。それぐらいの想いがないと、好きな写真の世界に入れない。私は起業したかった訳ではなく、写真の世界に入りたいという強い気持ちがあり、その手段としてストラップを作って売ることを選びました。

 

ー強い気持ちがあったからこそ今があるんですね。

家でミシンかけている時は本当に過酷でした。昼間は保育士として働いて、夜中はずっとミシンかけていたんですけど、当時1年半ぐらい布団で寝たことがない位です。
ソファーで正座して寝て、足がしびれて起きたらまたミシンをかけ始めて、ミシンの上で仮眠して、体が動くまでミシンかけて、動かなくなったらそのまま寝て、寒くなって起きて、またミシンかけるような生活をしてました。

それでも体は全然動いたし、寝たいとも思わなかったです。布団で寝ることは悪だと思っていたほど。今は寝ることが一番好きですが(笑)当時は睡眠を削ってでもやらなくてはいけない時期だったし、がむしゃらに生きているこの時期に命を落とす事はまずないと信じていたので、「必要とされているところにたどり着こう」「今はとても大切な道のりの上を歩いている」と、信じて気持ちを切らさないように必死にやってました。


本気で何かをするには、過酷な状況をも乗り越えられるような精神力を持つ必要があると思ってます。
覚悟をすることによって見える景色が変わっていくことも経験しました。

 

ー覚悟して取り組んでいるときは、「これは売れるだろう」という確信はあったのでしょうか。

売れる、売れないよりも、一つ一つ私の感覚を大切にして作ろうと決めていました。写真撮るときと同じで、この写真は高い評価がつくかなと、他人の評価を考えて撮る写真は欲が映るものだということを写真家の先生から学びました。写真は嘘をつけないという感覚を大切に、サクラスリングも写真を撮ることと同じような感覚で作り始めて、それは今でも変わらないです。

私が好きな感覚を1番大事にしつつ、それに加えて、私が使うものではなく他の人が使うものであるという意識をもち、私なりに使ってもらえるようにプレゼントするということを考えています。自分が好きではないものを作ってしまうと、販売したときにブレるんです。逆に、自分が本当に好きなもので売り場が展開されていると、何もしなくても売り場に力が宿って、すぐにお客様でいっぱいになります。自信を持った商品が並ぶと売り場が華やかになります。その感覚を大事にしたいと思っています。生地の選択からすごく悩むこともありますが、自分がどう感じるか、自分がこのデザインに責任を持てるのか、を考えてやっています。

 

サクラスリングのきめ細やかな日本らしさを世界にも発信していきたい

ー海外でもサクラスリングを販売されているのですか。

まだしっかりと海外に出してはいませんが、百貨店でイベントをやっていると海外のお客様にも見ていただける機会があり、喜んでくださることもあるので、今後は海外にも展開していきたいと思っています。ただし、このスリング状のストラップは風呂敷の応用のようなものなので、生活の中で便利に使えるイメージが湧きやすいのは日本人なのではないかと思うこともあります。

 

ーものを布で包む感覚は日本独特ですよね

「布一枚で、弁当箱も包めるし、一升瓶も持てるし、汚れたら洗えるし、かさばらないし、風呂敷1枚カバンに入っていると便利だよね」っという感覚は日本独特なものだと思っています。サクラスリングのカメラストラップも風呂敷のようにいろいろな便利な使い方があるのですが、正直、これを海外の人にいってもあまり伝わらないです。ピンとこない。
デザインがかわいいといって買ってくださる方がいるんですけど、洗えるし、包めるしって言ってもあんまり理解してもらえないんです。
ですので、まずは日本の人にしっかりサクラスリングを伝えていくことが大事だと思っています。

その後、そんな”日本らしさ”を海外の人に発信できるようにしていきたいです。


ーカメラストラップという物としてだけではなく、日本の文化として世の中に広めていける可能性があるということですね。

デザイン性だけだと海外生まれのものと言われることもあるんですけど、使い方としては日本のものです。風呂敷のようにいろんな用途で使えることを海外の人にお話しすると、「そういうきめ細やかなところが日本っぽくていいね」と言っていただけることがあります。一気に海外進出というよりは、丁寧に想いを発信していきたいと思っています。

 

サクラスリングは4人目の子供。愛されて育ててもらえるブランドへ

 

ー最後に、これからサクラスリングをどのようなブランドにしていきたいですか?

私にとってサクラスリングは4人目の子供だと思っています。年齢は4歳。魔の3歳児を終えて、やっと周りの世界に目を向けられるようになってきたような時期でしょうか。

まだ親の力も必要なので、しっかり手をつないでいきながら、育てていきたいです。親が必要とされているときにはしっかり側にいるけど、将来的には親の力なしで、1人で歩けるようになり手離れする時期もくる。そんなタイミングもしっかり見極めながらやっていきたいです。

お一人お一人が長く健康的に写真撮影を楽しむために、サクラスリングが支えとなり、世の中の役に立っていきたいです。多くの人が健康的に写真を続けることが、写真業界の願いであり、私が見つけた写真業界での役割です!

サキッチョ by
名古屋大学を卒業し都内のベンチャーで働く25歳。現在Q-SHOCKのSHOCKERとして活動。趣味は飲み歩きとダイビング。クラフトビールと沖縄の海が大好き!
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